名僧に聞く 生老病死すべてに答える - 鵜飼秀徳(浄土宗僧侶・ジャーナリスト)


名僧に聞く 生老病死すべてに答える 

―千日回峰行とはどのようなものでしょうか。

塩沼 舞台は奈良県吉野の山の中です。金峯山寺蔵王堂から大峯山までの往復48キロ、高低差にして1300メートルの山道を1日16時間かけて往復するのを1000日間続けるのが大峯千日回峰行です。総距離は4万8千キロ、地球一周よりも長い。雪で山が閉ざされていない5月から9月までしか歩けないので、満行までに9年間かかるのです。

毎日、夜の11時25分に起床し、滝に入って身を清めます。5月でも日によっては氷点下近くまで気温が下がる。おにぎり2個と5百ミリリットルの水が入った水筒を用意し出発です。最初の4キロは舗装されていますが、あとは石が転がる山道です。提灯の明かりだけを頼りに、暗闇の中をひたすら歩き続けます。提灯がないと、うっかりマムシを踏んでしまう可能性がある。もしも噛まれたら、そこで行は終わります。血清を持っていませんから、その場で死ぬほかないのです。

行を始めて460日目、大峯山の山頂近くで背後からクマに追いかけられたこともありました。とっさに杖を投げつけ、大声を張り上げたら、運良く逃げていってくれました。

天候にも悩まされました。嵐に遭っても、遮るものは岩くらいしかありません。目の前で崖が崩れ、行く手を阻まれたこともあります。

普通は午後3時半に戻ってきて、掃除、洗濯、次の日の用意をします。睡眠時間は大体4時間半。それを1000日続けます。行が始まってから終わるまでの期間は、1日たりとも休むことは許されません。

―仮にギブアップした場合はどうなるのですか。

塩沼 行の間、私はいつも自害用の脇差を持って歩いていました。行に入れば、決して途中で止めることは許されない。退路を完全に断ち、覚悟を持って行に入らねばなりません。脇差で腹が切れない場合に備えて、「死出紐」も用意していました。これははっきりとしたルールなどではなく、言い伝え、心構えとして、「千日回峰行とはそういうものだ」と伝えられてきたのです。

行を始める前に、師僧にひとつだけ確認したことがあります。.... 

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